性同一性障害やLGBT・マイノリティの人たちをわけ隔てなく受け入れてくれるほど世の中は甘くないという話

LGBTだから生きられる場所が限られている、「周囲に遠慮」しなくてはいけない。まずこの認識をもつのをやめよう

私は性同一性障害でLGBTだから、LGBTフレンドリーの会社に入ればいい。またはLGBTに理解のないところで働くのは難しい。若い学生さんなどでこういう風に考えている方は多いかもしれません。

しかし性同一性障害あることをカミングアウトしていろんな企業の面接を受けてきた私からアドバイスするならば、この考えは早い段階で脱却した方がいいと思います。

なぜなら、LGBTである以前に人間として、「人としてどうか」の部分がとても重要だからです。

大手企業からの内定を得た性同一性障害当事者の話

性同一性障害(FTM)の当事者で、大手企業から内定をもらったという人がいて、その方から話を聞く機会がありました。

そのFTMの方が内定をもらった大手企業は、LGBTのイベントであるレインボープライドにも毎年参加しており、表向きはLGBTフレンドリー企業ということになっていますが、実際にその会社がLGBTに理解があるかというとまったくの別の問題。企業には「建前と本音」があるということです。

むしろその会社では自分が当事者だなんて言い出せない雰囲気だそうで、周囲にカミングアウトすることもなく男性の方に埋没されて仕事をされています。また、企業を選ぶに当たってLGBTフレンドリー企業だからその企業を選んだということもないとのことでした。

実際、性同一性障害の方が大手企業の内定を得るというのは、非常にハードルが高いです。
トランスジェンダーとしてでなく、男性、女性のどちかかで就職するのであれば、就活が始まる前の大学在学中に性別適合手術を済ませておく必要があるからです。勉学の傍ら、性別適合手術代を自分で稼ぎ、海外へ渡航し性別適合手術受けると行った具合です。

決して周囲の理解のある状況ではなかったとのことでしたが、大学進学後、性別適合出を受け、大手企業の内定も得ることができた。なぜ順調なスタートを切ることができたか。
私はその方がとても堅実で現実的な考え方をしていたからだと思います。

少なくともそのFTMの方は「学生のうちに性別適合手術を受け、男性に戸籍を変更し、男性として社会人になる」ということを早い段階で決断し、将来の自分像が具体的にイメージして、それに向かって突き進んでいたのだと思います。

またこの方の場合、自分がLGBTであるとカミングアウトした上で就職活動はされていません。戸籍の性別を男性に変えて、男性として就職活動をしています。
トランスジェンダーの方が戸籍変更が出来た場合、大きなメリットがあります。見た目と戸籍が一致していれば、面接の場で「自分がもともと女性で生まれたが男性に性別を変えた」と言う必要がほぼありません。マイノリティのではなくマジョリティとして就職活動ができるのです。もし自分がLGBTであることをカミングアウトしてしまったら、この大手企業から内定が出なかった可能性もあります。

LGBTフレンドリーを謳う企業側の建前に振り回されないのが重要

この方は「カミングアウトしない方が自分にとって有利」と理解した上でカミングアウトせずに「男性」として就職活動を行い、内定を得ることができたのです。
結局、世の中にLGBTに対する理解が進んでいるような雰囲気はあっても現実とは別問題ということを理解しておかないと、世の中で戦っていくことはできないのです。
LGBTフレンドリーを謳う企業がなぜ?とても違和感はあるし、納得できないと感じるかもしれません。それでもこれが現実なのです。

会社選びをする際、「LGBTフレンドリーであるか」を軸にして選ばないことはとても重要

自分=LGBTであることになってませんか

もし将来、自分はマジョリティの人と一緒に働こうと思うのであれば、就職しようとする企業がLGBTフレンドリーかどうかは二の次です。まずは自分の軸をつくることに専念してください。

  • LGBTであることが自分のアイデンティティになってませんか?
  • 自分からLGBTであることを取り除いたら何が残りますか?

Twitterなどでよく、自分がマイノリティであることを延々と悩んでらっしゃる方を見かけますが、悩むことは悪いことではありません。でも悩むことに時間を取られないでください。

また周囲へLGBTへの理解を推進することを一生懸命になって、LGBT活動=自分になってしまっている方もたまに見かけます。ご自身でその傾向が強いと感じているのであればぜひLGBTのこと以外の生きがいも持ってください。

「LGBTである」ということはおまけに過ぎない

こう言われてしまうと酷かもしれません。私自身も、頭と身体の性別が一致せず、高校に通うことができなくなりました。苦しい思いをして悩んでだし、「これのせいで」という気持ちはとても強いです。決して軽い問題ではないとは思っています。

それでも、LGBTであって生きるのが困難だったのに、なぜ今日まで生きてこれたのだろうか。そういう風に捉えられると自分の世界がもっと広がります。LGBTであること以前に人として生きている。人の部分を大事にしてください。自分は何ができる人間なんだろうということに目を向け、自分という軸を強くしてください。

自分の本当にやりたいことはなんですが、どんな自分になれれば幸せですか?
それはすぐに見つからないかもしれませんが、これがしっかりあれば、自分がLGBTであるかどうかなんてとても些細なことになるのです。

自分の中でLGBTに対するポリシーを決めておくとよい

第三者にLGBTであることをカミングアウトした際、相手の反応は様々です。自分の存在を否定されることだってあります。なので、それをされたときに自分はどう受け止めるのか、予め自分の中でポリシーを決めておくのが良いと思います。

差別したいに人は「差別させてやればいい」

私には、「どうしても人を差別したい人には差別させておく」というポリシーがあります。
世の中には、普通とは異なった人を低く見たい、自分の下に置いておかないと安心できないという人がいるようで、どんな集団の中にもそういう人が一定数います。いるのはいいとしても、こういう人の近くでは働くのはご勘弁だなあと思っているので、それらの人が身近にいる場所で仕事をするのは避けるというのを決めています。

ここまでは我慢できるけど、これは出来ないという線引を自分の中で作っておくことはとても重要で、周囲の状況に振り回されないのは大切です。

マイノリティだからマジョリティの中では生きないというのも選択肢として大いにあり

自分の道を自分で選べんだ人が生きやすい

私は、「性同一性障害で生まれた時点であなたの人生はハードモード」だと思っています。
親と縁を切って、自腹で性別適合手術をして、やっとここで皆と同じスタート地点に立てて、LGBTフレンドリーを謳う大手企業から内定をもらったけど、でも実際はとてもじゃないけど自分が当事者だなんて言い出せる空気じゃなくて……。

頑張った分が報われるかというとそうでもないし、頑張らなくてもいい部分もたくさんあります。
「世の中の普通」に合わせようとすれば合わせるほどハードルは高くなっていくし、精神的に辛いこともあると思います。ただそれはハードな選択をしようとするからハードモードなだけであって、その選択をしないということもできます。

一社会人として会社に勤めなければ、世の中に認められないのでは。そう考える人も多いと思います。しかし大事なのは、皆が通る道を選択するのではなくて、自分に最適な道を自分で見つけることです。

要するに、自分が生きやすい道を自分で選べた人が、一番生きやすいという話です。

働き方は会社勤めだけじゃない

知り合いにこういう人がいます。
FTMで一般の会社に勤めようと考えたけども、学歴はないし、性同一性障害ということもあってそもそも就活のハードルが高い。会社に入ったとしても男女が前提のマジョリティの中に自分の居場所が感じられない。

性同一性障害であるか以前に「そもそも会社勤めが苦手」って方は一定数います。
苦手なことを無理にしてもその人本来のパフォーマンスを発揮できませんし、そういう場合はジョリティの集団に入る必要はありません。

自分の家でできる業務委託という働き方もありますし、ちなみに私は不特定の会社から仕事をもらう外部社員です。

LGBTフレンドリー企業の落とし穴

LGBT就活サイトを通して仕事が決まったけども、結局続かないという話をたまに聞きます。

やっぱりそれは会社を選んだ軸があくまでLGBT企業かどうかで選んでしまったのではないかと思います。全部が全部じゃありませんが、LGBTフレンドリー企業謳って採用をしている会社の多くは、「LGBTの人たちは就職が困難だろうからうちの会社で雇ってあげるよ。その代わりいい条件は出せないし、仕事がキツイけども頑張ってもらいたい」と考えています。良くも悪くもこんな感じです。

そうでなければ、わざわざ一般の人・LGBTの人と区別して求人を出したりしません。仕事内容的にも優しいものはほとんどなくハードな重労働が多いこともあります。
LGBT求人に飛びつく前に、LGBTをわざわざ採用する企業にどういう思惑があるのか。想像してみることはとても大切です。

また、一度LGBTフレンドリー企業での仕事が続かなかった場合、「自分に働ける場所はないんじゃないか」という思考に陥ってしまうこともあります。そういったことを避けるためにも、安直にLGBTフレンドリー企業を選ばずに、自分に合った会社や働き方を選んでください。派遣など業務量が調整できるような仕事から始めるのも大いにありです。
※派遣は派遣先企業に「性別」が伝わらないため、性同一性障害の人で派遣で働くという選択肢を選んでいる人もたくさんいます。機会があったらその働き方を紹介します。

淡い期待より現実を見ることが生きやすさへの一番の近道

LGBTフレンドリー企業がダメだと言っているわけではありません。
新卒で働いた経験がないという人にとっては、自分らしく働ける最高のスタート地点だと思いますし、そこにメリットを感じるなら選択肢の1つとして大いにありです。そういう機会はぜひ活用してください。そして自分で生きる力ある程度が身についたら、LGBTかどうかに関係なく企業を選ぶということもできるようになっていると思います。

最後に、性同一性障害やマイノリティの方でうまく生きている人ってどういう人でしょう。
苦労を全く知らずに生きるのも、苦労しっぱなしで生きるのも良くなくなくて、ほどよく生きている人がうまく生きている人と言えるのではないかと私は考えます。

私は今の生き方がいちばん生きやすいです。
自分の等身大の生き方を見つけられたので、あとはそれに沿って生きていくだけ。自転車に乗れるようになった感覚に似ています。
そして手を抜きすぎず、頑張りすぎず生きています。

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