妻子持ちトランス女性は性同一性障害じゃない?「型に当てはまらなければ性同一性障害ではない」という誤解

未だ根強く残る「こういう人は性同一性障害じゃない」というステレオタイプな偏見

元男の子として有名なとある方のTwitterでの発言を見て、少し驚いたことがあります。
「本当に心が女なら、女性と性行為したいと思わない」
「心が女なら男の役割を果たせない」

調べていくと、この方は性同一性障害ではなく、性分化疾患で染色体に異常があり、男性の身体で生まれながら、成人しても身体がほとんど男性化しなかったようです。(性自認はどちらかというと女性寄りのようです)
それを知り、「あー、なるほどな」と思いました。

結論から言うと、「心が女性なら、女性と性行為しないと思わない、性同一性障害ではない」はまったくの偏見で、女性と性行為したいかどうかは人それぞれ。
なぜなら、性同一性障害の人でも、そうでもない人でも、「自分は女性だけども女性と性行為してみたい」と考える女性は世の中に一定数いるからです。

今どき「〇〇じゃない人は性同一性障害じゃない」と言い出す人はほとんど見かけなくなりましたが、まだいるんだと感心しました。一個人が思うのは勝手ですが、あんまり公に言わないほうがいいですね……。

性同一性障害の当事者は「身体の方の性別に大きく引っ張られる」が基本

性ホルモンが人体にもたらす影響はとても大きい

話を戻します。私が「あー、なるほどな」と思った理由をお話します。
性同一性障害の当事者は、簡単に言うと頭と身体の性別があべこべで生まれてきます。
そうすると非常に厄介なことが起きるのです。

では、MTFで、「頭は女、身体は男のような状態」で生まれてくるとどういうことが起きるのかを順を追って説明していきます。

?MTFで生まれてきたとしても、子供時代はまだ本格的に身体が男性へと発達していないので、それほど性ホルモンの影響を受けずに済むことがほとんどです。

?問題は思春期以降。MTFの方の身体は、肉体的には通常の男性と同じ状態なので、身体的に女性の人の5?10倍の男性ホルモンが体内で生成されます。

性ホルモンの影響で恋愛対象が変わることもある

男性ホルモンが人体にもたらす影響は非常に大きいです。
肉体的に男性化するだけではなく、一時的に性的対象(恋愛対象)が女性になることもあります。

ちなみに私はFTMであり、頭は男性、生まれたときの身体は女性ですが、男性ホルモンを打つ前から体質的に身体が男性化しやすく、一番男性ホルモンが強かった時期は女性が恋愛対象になってました。
でも体内の男性ホルモンが弱くなると、男のような状態から女の子ぽくなったり、その差が非常に激しかったです。性ホルモンひとつでここまで変わるんかい?!というのを身をもって実感しています。

このように性同一性障害の当事者は、自分の意志に関係なく、体内の性ホルモンに大きく左右されることがあると感じています。

最初に取り上げた元男の子の方は男性ホルモンの影響をほとんど受けなかったため、性ホルモンの作用で自身が大きく影響されることを体験したことがないんじゃないかな?と思います。
自分の性自認が変動することなく「自分は女性である」と一貫していれば、「女性が女性と性行為すると考えるはずがない」と考えるのもごく自然なことだと思います。

性ホルモンの影響であって、「自分のせい」ではない

私自身は、性自認が女性から男性に揺れ動くのも、性ホルモンの影響と考えていいと思います。
「今、自分の体内の性ホルモンは、男性寄りなんだな/女性寄りなんだな」
それだけです。

また、「自分はMTFなのに、女性が好きになることもある」、「FTMなのに、男性が好きになることがある」
と悩む人は多いかと思います。
しかしホルモン注射を始める前の、体内のホルモンバランスが男性か女性のどちらかに傾いていない状態ではそれが当たり前です。自分でコントロールできないことに対して、悩んでいる時間がもったいないです。

「今、自分はどういう状態なのか」
「その状態に対して自分はどう思っているのか、快適なのか、不快なのか」

重要なのはこっちです。いちいち自分の身体の性ホルモンの状態に振り回されないでください。
性別の変動があるのが不快であれば、固定したい方の性別のホルモン注射を打って、性別の揺れがないようにしてください。
逆に性別を固定しない状態のほうが快適なのであれば、そのように生きてください。(今の私の状態です)

まとめ:型に当てはめて考えても、何一ついいことはない。

多くの人は型通りを好みます。型から外れるのを不安に感じる人も多いと思います。
「今の状態の自分が自分」です。人に合わせるようなものではありません。

自分にとってベストな状態を見つけ出し、自分が快適に生きられるようにするのがいちばんいいと思います。

一昔前は、「妻子持ちが当たり前」でした。

そもそも、「性同一性障害」という言葉が一般的でなかった30年ほど前は、自分が性同一性障害の当事者だと気づかず、身体の方の性別で生きて結婚をし、子供がいるという人もたくさんいます。
50代以上の方に多いです。
「妻子がありながら性別を男性から女性に変える人なんていない、いやいや昔はたくさんいたんですよ」というのを、覚えていただけると幸いです。

当事者、非当事者問わず、「トランス女性であえれば女性と子供が作れるはずない」「その人の熱意がないから身体の性別を変えようとしなかった」などと主張する方たまに見かけます。
今は自分は性同一性障害だと言い出せる時代になったけども、インターネットのない時代は、情報すら手に入らなかったし、自分が性同一性障害だなんて思いもしなかった。たとえ気づいたとしても、とてもじゃないけど言い出せなかった。そんな時代だったのです。
だから、「その人の熱意がないから身体の性別が変えられない」だなんて言うのはとても失礼なことです。

当事者が理解を得るのが難しい背景には、「性同一性障害は心の問題である」と誤った認識のほうが一般的に広まってしまい、「生まれの身体の問題」だと当事者の状態を正しく理解している人はとても少ないというのがあります。まだまだ課題は多いです。

関連記事:お父さんが突然女性になる?!性同一性障害に”途中で気づいた”人たちのお話

コメント

  1. 匿名 より:

    妻子への責任はどうなるのでしょうか。

    • Takenori より:

      昔は結婚するのがが当たり前でしたし、結婚して子供ができたあとに自分が性同一性障害だったと気づくパターンも多かったと思います。
      でも今は、インターネットなどの情報もあるので、若いうちに気づく人が増えてきて、結婚した後「実は」というのも減ってきてるとは思いますよ。
      本人とパートナー、お子さんの間の問題であって、他人がどうこう言う話でもないかと思います。

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