性同一性障害とは何か。性同一性障害の原因は何か。性自認とは何か。

身体の性別を変えようとする人は大きく分けて2種類がある

まず最初に、いちばん大事な話をします。
性同一性障害と言われる人には大きく分けて2種類があります。

  • 生まれたときに身体の性別に問題があり、自認する性別と身体の性別があべこべになってしまった人
  • 自分の意志で性別を変えようとする人

です。
私は前者の「生まれたときに身体の性別に問題ある」であり、性同一性障害で苦しむ大多数の人たちはこの状態であると思われます。
ところが世の中の多くの人は、性別変更をする人たちはみな後者の「自分の意志で性別を変えようとしている人」だと思っています。ここに大きな誤解があるのは言うまでありませんね。

性同一性障害とはなにか

そもそも正しく男性・女性の状態になっていない

性同一性障害は、頭と身体の性別の逆転現象であると言われています。
どういう状態かと言うと、首から上が男、首から下は女です。
「男なのに身体が女」だ、もしくは、「女なのに身体は男だ」なのです。

世の中の99%くらいの人に、「心の性別だから心の問題」って誤解されてることが一番つらいです……

このままではとんでもなく生きづらいので、自分の自認している性別の方へ身体の性別を適合させる。
これが性同一性障害の人が性別適合手術をする理由です。

染色体は正常なため「性同一性障害であること」を証明するが極めて困難

性同一性障害の人は、生まれてくる前の胎児だったときに、性別の分化になんらかの問題があると思われますが、染色体検査をしても、染色体に異常は見つかりません。私も染色体の検査を受けましたが、異常は認められませんでした。

染色体の性別が男なら男で間違いない、女なら女で間違いないと判断されてしまうため、性同一性障害の当事者がいくら「自分の性別はおかしい、自分は性同一性障害だ」と言っても、なかなか理解されず、「女の身体なのに、自分は男だと言うおかしい人」や、「身体とは逆の性別になりたがっている気持ちの悪い人」だと思われてしまうのです。

※染色体については、性分化疾患の当事者との間でしばしば論争になることがあります。
おことわりをページの最下部に追記しました。

性同一性障害の状態を説明することの難しさ

簡単に言うと、「首から上は男、下は女の状態」である。

性同一性障害は「自分は女性だけども、男性で生きたいと考える人」ではありませんし、そういうアイデンティティを持った人でもありません。
自分が男になりたいかどうか以前に、もう既に男性の状態なのです。

では、詳しく説明していきましょう。
私は、性同一性障害の自分の状態を説明するのに、首から上が男で下は女の状態と説明しています。(性自認は男性だが、身体は女性)
「男と女の身体を並べて、首を切って、それぞれの逆の身体に付け替えた」というのを想像してみてください。

性同一性障害で何が起こっているのか。実はとてもシンプルなのです

知り合いの性同一性障害の当事者の方には、こう表現する方がいらっしゃいました。
その方はMtFなので、女性だけど身体は男性です。
自分をパソコンにたとえて、「外側のハードは男で、中身の基本ソフトであるOSは女の状態」
男性の身体を、女性が動かすようなイメージだということです。なんとも不思議な状態ですが、これが現実に起きているです。

性同一性障害の当事者が受ける誤解

私がいちばん問題に感じているのは、性同一性障害の当事者は「男なのに女になろうとしている」、「女なのに男になろうとしている」という誤解を受けてしまっていることです。

もうお話したとおり、性同一性障害は、身体の性別が自分の本来の性別ではなく、「身体の性別とは逆のほうが本来の性別」になっているので、身体の性別を変えるということは本来の性別になるということなのです。性別”転換”手術ではなく、元の性別に合わせるから性別”適合”手術なのです。

しかし染色体に異常がないなどの状況から、客観的に自分の状態を説明することが難しく、周囲の偏見などで性同一性障害の人たちが受ける苦痛は計り知れないほど大きなものです。

性自認とは何か

人間の頭には「自分が男性か女性か」を判断する部分がある

どうして性同一性障害ということが起きるのでしょうか?

それは、私たち性同一性障害の当事者も、そうではない男性・女性の人もみな、自分は「男性」、もしくは「女性」だという性自認を持っているからです。
※ここでは自分は男性か女性に当てはまらないと考える人を除きます

― ― あなたの性別はなんですか?
「自分が男性だ、女だなんて自分の身体を見れば分かる」。
その通り。もともと身体も頭も正しく男性か女性である人にとっては「自分が男性か女性かなんて考えたこともない」という人がほとんどなのです。

一方、性同一性障害の人は、自分は明確に「男性である・女性である」という性自認と、自分の身体の性別が逆になっているのです。するとどういうことが起きるのでしょうか。

こう考えてみましょう。

  • 頭と身体の性別が一致していれば、違和感を感じないので自分の性別がおかしいと感じない。
  • 頭と身体の性別が一致していなければ、明確に自分の性別はおかしいと感じる。

もし、この「性自認」がなければ、性同一性障害は起こらず、身体の性別に沿って生きていくことも可能かど思われます。

頭に自分の性別を判断する「性自認」なんてホントにそんなのあるの?と思う方は、「ブレンダと呼ばれた少年」という本を読んでみてください。
簡単に説明すると、ブレンダはもともと男の子として生まれましたが、手術の失敗で男性器を切り落とされてしまい、女の子として育てられます。しかし、ブレンダは徐々に「自分が女の子であること」に違和感を感じ、最終的に男の方に戻ってしまいました。というお話です。

しかし考えてみればとても妙な話ですね。赤ちゃんのまっさらな状態から女の子として育てられたはずのブレンダは、どうして「自分は本当は女の子ではない、男の子なのではないか」と感じたのでしょうか?そこに気づいた人は鋭いです。

性自認はその人の捉え方で決まる

仮に性同一性障害であって、「身体は女性、頭は男性」の状態で生まれてきたとしても、本人が「自分は身体が女性だから女性に決まっている」という考えの持ち主であれば、そのまま女性として生きることも出来ます。

つまり、性同一性障害とは、もともとの状態に加えて「本人の考え方」に依るところが大きいのです。

余談ですが、私の姉は女性だけども、男性の特徴を持っている部分もあり、いわゆる女性らしい女性とは少し異なります。ただ姉はおそらく「自分の身体は女性だから女性に間違いない」という考えしているので、私とは違いそのまま女性で生きています。
私と姉、性質はよく似ているところも多いと感じてますが、考え方は全く似ていないのです。

性自認と身体の性別の不一致で生きるのが困難になる場面とは

今の私には、身体は女性ながらも、自分の性自認が「男性の方になっている」という自覚がありますが、生まれてからずっとこの自覚を持っていたわけではありません。自分の身体は女性だから自分は女性なんだと考えていた時期もありますし、少なくとも子供の頃はそれでもよかったのです。

しかし大人になるにつれ、身体は女性なのに自分の性格や性質が男性に寄ってきたことに大きな違和感を感じ始めます。身体は女性なのに女性にならない。どうしてだろう。

最も大きな問題はアイデンティティがうまく形成できないこと

漠然とした違和感以外にも大きな問題があります。それはアイデンティティが上手く形成できないという問題です。
一般的に我々人間は、思春期を過ぎ、大人になっていく段階で「自分とはなにか」、「自分はこういう人間だ」というのを自覚し始め、自分はこういう人間だというのが形成されていきます。
そんな中、性同一性障害の私は、男性でありながら身体が女性だったため、自分が何者なのか分からず、自分というものを形成するのが極めて困難だったと感じています。

性同一性障害の人が、自認する方の性別へ性別適合手術をしないと生きていけない理由はこういうところにもあるのです。

性自認についてはこちらのページに詳しくまとめてあります。
性自認とは何か。性同一性障害の私は何をもって自分を「男性」だと言えるのか。

性同一性障害の人が困難を乗り越え、生きていくためにはどうしたらいいのか

性同一性障害であることを悲観しないこと

本人が性同一性障害であることを悲観しないこと。これが一番だと思っています。
どうして自分は性同一性障害なんだろうかと悩んでも仕方ありません。そこからどうするか。どう生きるか。それが一番大事です。

どういう選択肢があるのか、その人に合った答えを見つけることが大切

性同一性障害の人が生きていくための選択肢はたくさんあります。その中から、自分にとってどの選択がいいのかをしっかり見極め、選択していくということが大切です。

性別適合手術をして、男性、女性として生きていく選択もありますし、
男女関係なく活躍できる仕事に就いて、頭は男だけど身体は女性「性自認と身体の性別があべこべのまま」の自分で生きていく方法もあります。(これは私の場合です。性同一性障害を知らないで生きてしまったので、ちょっと特殊なケースです。それでも生きていく方法はあるのです。)

性別適合以前に、周囲との調和も大事なステップ

もし性別適合手術をすると決めた場合、周囲の理解は得られるのか、親の理解は得られている状態かなどはとても重要です。親を悲しませるくらいなら、性別適合手術をしないという選択を選んだ人もいます。性同一性障害の当事者の人が、自分の中で譲れない部分、周りとの関係を考えて譲る部分のバランスを保つことはとても重要です。

”生活弱者”という偏見を、当事者も非当事者も持たないことが重要

性同一性障害の人は様々な職業に就いています。
10代でさまざまな苦痛を経験しながらも、学生のうちに性別適合手術を済ませ、大手企業で活躍している人もいます。

一方、性同一性障害であることが障壁となって、就労が困難という人も一定数いますが、決して多くを占めているわけではありません。
そうであっても、性同一性障害の人は仕事に就くことができないという誤った認識を持つ人も多いのが現状です。

一度、弱者というレッテルと貼られてしまうと、高い能力を持った性同一性障害の当事者の活躍を妨げることにも繋がります。
性同一性障害であるかどうかは関係なく、活躍している人は活躍しています。つまり、「なんら変わらない」。この認識を持ってもらえるのがいちばんいいと思っています。

性同一性障害と染色体に関するおことわり

性同一性障害の当事者は、性同一性障害の診断の前に必ず「染色体検査」を行います。
そして性同一性障害の当事者は染色体に異常は見られません。
「染色体に異常がないものはない」。私にとってはそれだけですし、「染色体に異常があれば自分の性別に問題があるということを証明できる」という考えを持った性同一性障害の当事者を、私はほとんど見かけたことがありません。

しかしながら、性同一性障害の当事者が「染色体に異常があればよかった」と言及した場合、染色体に異常が見つかったという性分化疾患の方の尊厳をひどく傷つけることになりかねません。

性同一性障害の当事者の状態を説明する上で、染色体のことについて触れることがありますが、決して「染色体に異常がある方がよかった」という意味で取り上げているのではないことを、ここにおことわりさせていただきます。

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