性同一性障害で起こることの不思議なことの一つに、恋愛対象は「自認する性別が男性なら女性が好き、自認する性別が女性なら男性が好き」になるとなる割合が、性同一性障害でない人よりずっと低いということがあります。どういうことなのか具体的に説明します。
自認する性別が恋愛対象になることもある
私自身はFTMで、性自認が男性ということを知り合いにカミングアウトしていますが、
「恋愛対象は女性なのかと思った」と言われることがとても多いです。
男性なら、恋愛対象は女性だし、恋愛対象は異性というのは世の一般的な感覚だからこう思われることが多いのですが、性同一性障害の世界ではちょっと違います。
性同一性障害の人の恋愛対象
- FTM(女性の身体で生まれ、性自認は男性)の人の恋愛対象は、8割程度が女性、2割程度が男性。
- MTF(男性の身体で生まれ、性自認は女性)の人の恋愛対象は、おおよそ半分くらいの人は男性、半分くらいの人は女性。
性同一性障害の当事者を診てきた専門家のブログに過去掲載されていてた情報です。Twitterなどを見ていると、実際にこの数字はかなり近いと思います。
性自認が女性で、男性の体から女性に性別を換えた人であっても、恋愛対象は女性という人(MTFレズビアン)がとても多いです。この情報を初めて知ったときは私自身も驚きました。
一方FTMの方は、男性の性自認だけど男性が好き(FTMゲイ)という人の割合は若干少ないですね。
女性の身体で男性が好きなら、性同一性障害ではなくて女性ではないのか?
私(FTM)を例にとって考えてみましょう。
私は女性の身体ですが、首から上は男性の状態なので、男性であることには変わりありません。
その私が「男性が好き」、つまり「男で男が好き」という状態になります。一般的なゲイと同じ状態なのです。(「FTMゲイ」と言われます)
男性が好きで身体が女性なら、女性のままではダメなのか?と本当によく言われます。
なぜダメなのかというと、「女性で男性が好き」と、「男性で男性が好き」はまったく別物だからです。
話がややこしくなってきたので一度基本的なところに立ち返りましょう。
男性が女性として育てられても、女性にはならない不思議
私の本来の性別は「男性」であり、しかしそれ関わらず身体が女性であるため、女性の方に分類されてしまいました。メスのひよこの集団に「1匹だけオスのひよこが混じってしまった」ような状態です。
メスのひよこの集団で育ったひよこはどうなるのか。性質がメスに寄って、「メスっぽいオスのひよこ」にはなることはありますが、「メスのひよこ」にはなれませんよね。
私も同じです。女性の集団の中で生活して、性質が女性に寄ることはありますし、恋愛対象が男性になることもあります。育った環境に影響される面はとても大きいです。
しかし、自分の本来の性別が男性というのは、逆立ちしたって変えることはできないのです。
性同一性障害でFTMの人は、身体が女性であっても女性ではありません。
「自分は男性が好きだから性同一性障害ではないのではないか?」と悩む当事者もとても多いです。
しかし、その答えはとても簡単なことで、この人は「性同一性障害の”男性”であり、”男性で男性が好き”」という状態なのです。初めて聞く人にとってはとてもややこしいですね……。
同じ「性同一性障害」でも、個人差はとても大きい
性同一性障害の人には個人差があり、本来の性別ではなく身体の方の性別のほうが暮らしやすいという人もいます。
それでも自分の性自認が身体の方ではないことをはっきり自覚しているので、「違和をあまり感じないから自分は性同一性障害ではない」とはならず、性同一性障害であることを自分で自覚して暮らしている人はたくさんいます。
一方で、「典型的な性同一性障害」に当てはまらないことで同じ当事者から理解が得られず、孤独を感じる人も少なくありません。
一概に性同一性障害といっても、「育った環境にも影響されるし、個人差が大きい」のです。
「完璧になれない」でいい
「自分はFTMゲイだから、男で男が好き。ストレートの男性には受け入れられないのではないだろうか」私も一時期こんなことを考えていました。
見た目を極力女性に寄せて、外から見れば完全に女性と思われても、本来の性別は男性なので根本的なところは変えられません。作り物の女性にしかなれないのです。
「頭も身体も完全に女性で生まれてきた人」が羨ましく思えた時期もありました。
変えられないと理解した上で自分らしく生きよう
結局悩んでも、どうすることもできない部分は変えられないのです。
MTFの人が性別適合して、女性の身体になったとしても、子供を産むことはできません。
FTMの人が性別適合して、男性の身体になったとしても、子供を作る能力はありません。
完全に望む通りにならないから幸せになれないと考えがちですが、まったくそんなことはありません。
性同一性障害じゃなくても、子供を産むことのできない女性もいれば、子供を作る能力のない男性もいます。
けっきょく「性同一性障害だから」と考えてしまうことが一番よくないのです。
性同一性障害じゃなくても大変な人はたくさんいます。
身体に先天性の疾患がある人や、事故で突然身体が動かなくなってしまった人など、そういった方たちがどのようにして困難を乗り越えていったのか。自分で調べる、知るなど行動に移せれば、大きな悩みを解決する一歩になると思います。
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